軽貨物ドライバー予備軍の雑日記(仮)

40歳を目前に控えた男が、会社を辞めて新しい人生を始めるために奮闘する様子を綴っていきます。

僕とレスポールの出会い

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どうも、だんしゃりです。

 

早速更新が滞っている模様ですが、

ま、マイペースに投稿していきます。

 

とはいえ微妙に忙しくて書けていないので…

過去に書いた回顧録をひとつ。

 

僕の歪んだ想いと、親父との心温まるストーリーを描いた感動巨編です。

少々長いですが、秋の夜長に是非。 

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予感めいたものなど、なにもなかった。

 

『お前、ギターは興味ないんか?』

夏休みも残り数日、小5のある晴れた日の朝。

宿題と対峙していた僕に向かって、親父はそう言った。

 

気付けば親父と二人で、新宿の楽器店に居た。

恥ずかしさに似たような気持ちで、店内を見渡してみる。

 

『どれがええねん。こーたるわ。』

ギターを弾いてみたいだなんて、一度も言った覚えはない。

家でゲームをしたり、外で走り回ったり、綺麗な女の人を尾行してみたりの毎日。

自分には縁のないモノだと思っていた。

 

"買ってくれるって言うんだし、買ってもらおう"

子供なら誰しもがこう思うのであろうが、僕もその例には漏れない。

 

気分を変えて店内を見渡してみる。

様々な形の楽器が壁に吊るされていた。

ふと横に目をやると、金髪のお兄さんの背中が小気味よく揺れている。

 

唇を尖らせ、右手で一定のリズムを刻んでいた。

どうやら試奏をしているらしい。

 

初めて見る光景を脇目に、僕は1本のギターを見上げていた。

 

『それ、レスポールって言うの。カッコいいっしょ?』

(店員さんか。どうでもいいよ。話し掛けないでくれ。)

突然耳に入ったその言葉に、反射的に沸いた感情だった。

 

このままずっと見ていたいと思った。

それはまるで、あの人のようだった。

 

あの人の・・・いつも追いかけていた綺麗な女の人の・・・

おし・・後ろ姿のようだった。

 

挑発するかのように僕を見下ろす、黒いレスポール

あまりにも完成されすぎた曲線。

そのボディから真っすぐ天に伸びるネック。

そこに這う6本の弦は、彼女の芳しい髪を彷彿させた。

 

これが、僕と彼女との出会いだった。

 

『これにしとく。』

親父にそう言った。

初めて目にしたギターへの、歪んだ感情を悟られないように。

あくまでポーカーフェイスに。

 

自宅に戻り、部屋に籠って『黒い美女』と戯れた。いや、抱いた。

勢いに任せて弦を弾いてみるが、もちろん喘ぐはずもない彼女。

不協和音だけが響く部屋の中、金髪お兄さんとは違った意味で唇を尖らせた。

 

気を取り直し、教則本を開きながら必死に「F」のコードを押さえてみる。

僕の想いとは裏腹に、いくら頑張ってみても彼女は喘いでくれない。

僕を拒絶するかのように、この指を伝って不快な振動を与えてくる。

 

部屋のドアが静かに開いた。

 

『やっとるな。「F」やろ?教えたろか。貸してみ?』

『指痛いし、手ちっちゃいから弾けへんし、もういやや。こんなんいらん。』

『そうか。ほなまた気向いたらやったらええわ。な。』

 

あの時の親父の表情は、今でも忘れられない。

 

 

そして今。

 

 

部屋のドアが激しく開いた。

 

『じゃかーしゃーボケ!(うるせーよこのダメ息子!)』

 

翌日のコソ連(恒例の一人スタジオこそこそ練習)に向け、

ヘッドホン仕様でバンド課題曲を練習しているつもりだった。

 

が、しかし「つもりだった」だけであって、

アンプからも大音量で「SPARK」のリフ音が放出されていたらしい。

16年前の夏を懐古し微笑んでいたはずの親父も、流石に我慢ならなかったようだ。

 

アンプのボリュームつまみは、おやつの時間程の位置で固定されていた。

いくら自宅用の小型アンプとはいえ、冗談では済まされないレベルの大音量だ。

ヘッドホンをそっと脇に置いて、静かに頭を垂れた。

 

『すんません。。』

『ええ加減にしとかなな。な。』

『はいすんません。ほんますんません。』

 

親父。

 

俺の機嫌が直ってから、何度も教えてくれた「F」のコード。

今ではとっても綺麗に喘いでくれるよ。