僕とレスポールの出会い
どうも、だんしゃりです。
早速更新が滞っている模様ですが、
ま、マイペースに投稿していきます。
とはいえ微妙に忙しくて書けていないので…
過去に書いた回顧録をひとつ。
僕の歪んだ想いと、親父との心温まるストーリーを描いた感動巨編です。
少々長いですが、秋の夜長に是非。
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予感めいたものなど、なにもなかった。
『お前、ギターは興味ないんか?』
夏休みも残り数日、小5のある晴れた日の朝。
宿題と対峙していた僕に向かって、親父はそう言った。
気付けば親父と二人で、新宿の楽器店に居た。
恥ずかしさに似たような気持ちで、店内を見渡してみる。
『どれがええねん。こーたるわ。』
ギターを弾いてみたいだなんて、一度も言った覚えはない。
家でゲームをしたり、外で走り回ったり、綺麗な女の人を尾行してみたりの毎日。
自分には縁のないモノだと思っていた。
"買ってくれるって言うんだし、買ってもらおう"
子供なら誰しもがこう思うのであろうが、僕もその例には漏れない。
気分を変えて店内を見渡してみる。
様々な形の楽器が壁に吊るされていた。
ふと横に目をやると、金髪のお兄さんの背中が小気味よく揺れている。
唇を尖らせ、右手で一定のリズムを刻んでいた。
どうやら試奏をしているらしい。
初めて見る光景を脇目に、僕は1本のギターを見上げていた。
『それ、レスポールって言うの。カッコいいっしょ?』
(店員さんか。どうでもいいよ。話し掛けないでくれ。)
突然耳に入ったその言葉に、反射的に沸いた感情だった。
このままずっと見ていたいと思った。
それはまるで、あの人のようだった。
あの人の・・・いつも追いかけていた綺麗な女の人の・・・
おし・・後ろ姿のようだった。
挑発するかのように僕を見下ろす、黒いレスポール。
あまりにも完成されすぎた曲線。
そのボディから真っすぐ天に伸びるネック。
そこに這う6本の弦は、彼女の芳しい髪を彷彿させた。
これが、僕と彼女との出会いだった。
『これにしとく。』
親父にそう言った。
初めて目にしたギターへの、歪んだ感情を悟られないように。
あくまでポーカーフェイスに。
自宅に戻り、部屋に籠って『黒い美女』と戯れた。いや、抱いた。
勢いに任せて弦を弾いてみるが、もちろん喘ぐはずもない彼女。
不協和音だけが響く部屋の中、金髪お兄さんとは違った意味で唇を尖らせた。
気を取り直し、教則本を開きながら必死に「F」のコードを押さえてみる。
僕の想いとは裏腹に、いくら頑張ってみても彼女は喘いでくれない。
僕を拒絶するかのように、この指を伝って不快な振動を与えてくる。
部屋のドアが静かに開いた。
『やっとるな。「F」やろ?教えたろか。貸してみ?』
『指痛いし、手ちっちゃいから弾けへんし、もういやや。こんなんいらん。』
『そうか。ほなまた気向いたらやったらええわ。な。』
あの時の親父の表情は、今でも忘れられない。
そして今。
部屋のドアが激しく開いた。
『じゃかーしゃーボケ!(うるせーよこのダメ息子!)』
翌日のコソ連(恒例の一人スタジオこそこそ練習)に向け、
ヘッドホン仕様でバンド課題曲を練習しているつもりだった。
が、しかし「つもりだった」だけであって、
アンプからも大音量で「SPARK」のリフ音が放出されていたらしい。
16年前の夏を懐古し微笑んでいたはずの親父も、流石に我慢ならなかったようだ。
アンプのボリュームつまみは、おやつの時間程の位置で固定されていた。
いくら自宅用の小型アンプとはいえ、冗談では済まされないレベルの大音量だ。
ヘッドホンをそっと脇に置いて、静かに頭を垂れた。
『すんません。。』
『ええ加減にしとかなな。な。』
『はいすんません。ほんますんません。』
親父。
俺の機嫌が直ってから、何度も教えてくれた「F」のコード。
今ではとっても綺麗に喘いでくれるよ。